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人生いろいろ

映画「怒り」 感想

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人が泣く理由として、嬉し涙や悔し涙、そして悲しみの涙がある。

この「怒り」ではとにかく慟哭シーンが多い。

よくある映画のパターンでは、恋愛絡みの痴情の縺れや別れを原因とした涙、誰かの命が断たれることによる涙というのがほとんどを占める。

しかしこの映画はタイトルからも見て取れるように根本的に怒りを発端とした涙である。

こう表現すると「復讐心に駆られる」というキーワードが頭に浮かぶかもしれないが、決してそうでは無い。

あくまでもその怒りは自分の不甲斐なさに対する怒りである。

 

 

この映画は3つの別々のストーリーがそれぞれで展開するオムニバス形式の作品である。

家出をし、風俗で勤めていた娘(宮崎あおい)を連れ戻し漁港で働かせたものの、同じく漁港で働く前歴の分からない男(松山ケンイチ)と惹かれ合うことになり不信感を抱く渡辺謙

ハッテン場で知り合った家も仕事もない男(綾野剛)とともに1つ屋根の下で暮らし始めた妻夫木聡

家族間のトラブルに辟易し、リフレッシュで友人(佐久間宝)と近くの無人島に足を踏み入れたところ、そこに数日前から住む同じく謎に包まれた男(森山未來)と打ち解け次第に心を開いて行く広瀬すず

それぞれのストーリーが展開して行くにつれて生じる「怒り」。

それだけではただの尖った心理状態を描いた作品にとどまってしまうが、この作品はまた未解決の八王子夫婦殺害事件とも同時に絡んでくるところが肝である。

事件の指名手配犯の顔写真が公開され、いま付き合いをしている正体不明のこの人物が果たして本当に犯人ではないと言えるのか。信じきることができるのか。

ミステリー要素を念頭に置きながらも、犯人についてはストーリーの中では深く掘り下げず、あくまでも各登場人物が抱く人間に対する信頼、または裏切り、その狭間で揺らぐ葛藤が細かに描かれている。

 

 

完全なネタバレはじめ

 

この作品で唯一でもあり最大の疑問点は、なぜ犯人が2箇所で「怒」という文字を残したのかという点である。

最終的には犯人が誰であるのかが判明し、彼は思ったことをそのまま文字にする人物だと刑事が考察する場面があるが、そこに至るまでの動機が全く分からない。

 

まず、物語の冒頭で観る人の心をぐっと掴む、あの血で塗られた「怒」という文字。

犯人はなぜ「怒」ったのか。

自分の中でイマイチこれというのが分からない。決してサイコパスだから、頭がおかしいからという理由だけではないような気がする。 

ただこの部分は元同僚の土木作業員が、犯人は元々プライドの高い人物であり、作業現場を勘違いし灼熱の中疲れ果て、ある家の石段に座っていたところ、その家の奥さんが心配してお茶を差し出してくれた心遣いを見下されたと解釈しカッとなって殺害したと話していた描写があったので一応は納得することにする。ただ、これはあくまでも元同僚の主観であるので真相はよく分からない。というかこれでは腑に落ちないのが現実。

 

 

そしてもう1つは犯人の部屋に大きく描かれた「怒」という文字。

ここからはもう完全なネタバレになるが、

田中がキッチンで大暴れし破壊行動に至った原因は何故か。それは泉に対する怒り?辰也に対する怒り?それとも民宿の人も含めた全てにあらゆるものに対する怒り?

田中が三味線のリズムに合わせて民宿のキッチンで踊っていた描写があったが、その時の心理状態とは何が違ったのか。

と考えるとやはり泉に対する米兵による暴行がきっかけなのだろうか。それは、宿泊者の荷物を乱暴に放り投げる場面からも暴行シーンによる影響が見て取れる。

田中は、泉が襲われ辰也が怯えてそれを眺めるしかできなかった様子を偶然目撃し、部屋の落書きからも分かるように「ウケる」と感じた。

でも本当は田中もまたそこで間に入って暴行を止めたかったのではないのだろうか。

ただそれができなかった。しなかった。

そこには彼のプライドの高さが関係してくるのではないか。

田中にとっては、若い男女の仲を取り持つ理由もないし、またこの少し前のシーンで3人が偶然会い酒を交わすシーンがあったが、そこで田中は酩酊状態の辰也にバッサリと好き勝手なことを言われている。

いくら酒の席とはいえ自分をコケにした人物をあの場で助けるという行為はプライドの高い田中はできなかったのであろう。

ただ、それでも泉とは親しい関係であり、そこで彼女を救えなかった自分自身に対する怒りがあの自室での「怒」に表れているのではないかと私は思う。

ヒントが少なすぎてよく分からないが。

 

 

ネタバレ終わり

 

 

 

まとめるとこの作品は一見ミステリー映画に見せかけた人間ドラマに焦点を当てた超豪華俳優による映画である。

特に、「容疑者Xの献身」「告白」のようなミステリー×ドラマの「信頼」をキーワードにした作品が好きな人にはオススメである。

 逆に言えばプロローグから心臓を鷲掴みにされ、それをラストまで揺さぶられ続けられる作品であるので重い映画が苦手な人や、また過激なホモ描写やレイプシーンがあるのでそういうシーンが耐えられない人にはオススメできない。

 

 

ただ、私個人としては映画の良し悪しはその映画について視聴後に考え続けた時間の長短によって決められるという評価軸を自分の中で設定しているので、そういう意味では最も長い時間考えさせられる映画であったため、今年の中では1番面白かったと自信を持って言える。

 

そして、感じたことをこうやって羅列していくうちにようやくわかったことで、先ほどの問いに自分自身で答える形にはなるが、結局他人の「怒」る原因なんて誰も分からないというのがこの映画で1番言いたかったことなのではないかと思う。

ネットで本作のレビューや感想を検索してみると分かるが、どの批評も犯行動機を言い当てられていないし、怒という文字を書き記す理由が分からないと記述している。

だが、それが分かったら誰とも不和なんて起こらないし、軋轢なんて生じない。

「怒り」という感情はとどのつまり本人以外の誰にも理解されることはない。

そういうものなのである。

だから、作中でも描写されないし、描写できない。

ということで納得しようかな。

 

 

 

ここまで冗長に書き連ねてしまったが、何を言いたいのかというともうすぐ劇場公開が終わってしまうかもしれないのでみんな是非とも映画館で見ましょう。ということです。

 

ちなみにこんな陳腐な文章を書くのに3時間もかかってしまった。難しいなあ。

でも楽しい。

 

 

おわり